のこりもの、不良品、戦略不足 (別名ゴミ箱)
小説と言えないものたち。 基本書きかけ・中途半端・続かない。 続きが閃いたら書くかもしれない。 コメントは大歓迎です。
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※中途半端な未来の妄想。
俺の勝手な思い込みだったのだと今は分かるのだけれど、彼はそういったものを所有しないように思えた。憧れても欲しないように思えた。持っていても大切にしないように思えた。
彼がそれを所有すると、彼の価値が下がるようにも思えた。それを守って戦う、それを大事に生きる彼など、彼でない気がした。
彼は振り返らず、背中を気にせず戦場へ赴くのが似合うと思えた。
血を浴びて戻ってきて、無表情のまま血のついた服を捨て、風呂場で赤を洗い流す彼の方が、容易に想像できた。その方が似合っていると思った。
それこそが俺が勝手に作り上げた彼の理想像なのだとすぐに気付いて、俺は目を伏せた。
もう八年も前になる。彼が十八だったとき、酒の勢いで、彼を抱いた。
俺の好きなお天気お姉さんが結婚してしまった。項垂れ飲んだくれ落ち込む俺の横で彼は酒に付き合ってくれた。
好きだと言ったことはないし、好きだと思ってもいなかった。だから何故抱いたのかと言われれば酒の勢いとしか言いようがないし、その後も俺達の関係は変わらなかった。
俺達はそれからも一緒に酒を飲んだ。下らない世間話で盛り上がって政治に文句を言って仕事の愚痴を零した。再び抱くことはなかった。
彼は何時しか合法的に酒を飲める歳になり、俺は三十路に突入し、これからも同じように歳を重ねていくのだと思っていた。
漠然とそう考えたそれが予想ではなくて期待だったこと、願いだったこと、望みだったこと。俺は気付くのがいつも遅い。
「女に子供が出来てしまいましてね。男らしく責任を取るつもりです」
例えば彼があの時俺の手を拒んでいたら、彼はそういったものを所有しないだろう、なんて彼を勝手に作り上げることはなかっただろう。
一度きりのあの時、自分の中で何度も思い出したあの時、俺の中にあったのは酒と悲しさと淋しさ、そして…確かな愛情だった。後から、俺は愛情から彼を抱いていたと知った。
だが、彼はどうだろう。幾度思い返してみても、彼は俺に愛情を向けていたとは思わない。彼はきっと、同情からだ。
彼が悪いとは言わない。けれど俺はもしかして悲しかったのかもしれない。
俺は彼に好きだと言えなかった。
好きだと気付いたのは今だなんて、あまりに愚かしくて口に出せない。
「ささやかな式にするつもりですが、近藤さんが張り切ってしまいやしてねェ」
そう言う彼のはにかんだ表情が俺を更なる暗闇へ落とした。
その顔に含まれる、俺とは真逆の感情。
「旦那も是非、来て下さいね」
俺が未来永劫所有することの出来ないものを、彼は所有してしまった。
俺にはそれを奪えないのだし、与えることも出来ない。
いずれ届くであろう招待状を、俺はどんな顔で見つめているのだろう。いっそ、今伝えてしまったら楽になるだろうか。
でもきっと俺はいつも通りの死んだ魚の目で出席し、能面のようなぐしゃぐしゃのような顔で、集合写真に写っている。
end.
続きもちょこっと考えたんですが保留。
書く可能性は30%くらい。
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