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のこりもの、不良品、戦略不足 (別名ゴミ箱)
小説と言えないものたち。 基本書きかけ・中途半端・続かない。 続きが閃いたら書くかもしれない。 コメントは大歓迎です。
76543/ 2/ 1

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カラスがカーカー鳴く黄昏時のことでした。
 

歌舞伎町の片隅の、寂れた小さな公園のブランコをキィキィいわせてこぐ少女がいた。
口には同世代では滅多に好む者が居ない駄菓子をくわえ、右手でブランコを掴みながら左手には日傘を持ち、その傘はとても大きいのに、器用にそこに座って、そこで揺れていた。
少女は無表情で、淡々と、膝を延ばしたり曲げたりしている。
 

いつも缶蹴りをしたり、一緒に駄菓子を買う子供達はもう居ない。少女がブランコをこぎ始める前、各々の帰る場所へと戻って行ったから。
じゃあね、バイバイ、また明日。
そう言って、別れたから。
少女は引き留めることをしなかったし、出来なかった。少女は少女だったからだ。
 

キィキィとブランコをこぎながら、少女これからどうしようかと考えた。
そのまま万事屋には帰れなかった。静かに反省もした、謝ろうとも思う。しかし素直になれないのだった。
 

あれー、どっかのチャイナじゃねぇかィ。
 

そんな時、聞き覚えのある声が傘ごしに聞こえてきた。
 


何してんだ、こんな時間に、と言いながら男は隣のブランコに座った。
かっちり着込んだ隊服は夕焼けに染まったブランコと酷く不釣り合いな気がして、少女は顔をしかめた。
(数日の後、少女は思い直す。不釣り合いで当然である!仮にもその隊服は江戸のヘイワを守るべく存在する奴らが着るものなのだから。その隊服でこんな小さな公園のブランコに乗っているとはどういうことか!)
 

いいだロ、今乗りたいからブランコに乗ってるアル。邪魔すんなボケが。
 

少女は普段通りの毒舌で男の問いに答えた。
キィキィと鳴る少女のブランコの右から、キーコーと男のブランコから音が鳴る。速さも違えば音の高さも大きさも違う。
特に少女の毒舌に驚くことも怒ることもなく、男はあっそ、と返した。そしてブランコをこぐ。次第にブランコが少女のより大きく弧を描き出す。
 

キーコー、キィ、キーコー、キィ。
 

誰も居ない公園で二人の乗るブランコだけが音を奏でていた。二人はお互いを見るでもなく話し掛けるでもなく、ただブランコをこいだ。ただ、お互いの存在は確かに、ひっそりとだけれど意識していた。
 

少女はそのうち足を動かすのをやめ、振りの小さくなるブランコに身を任せるだけにした。
膝を曲げて足が地に着かないようにし、背中から降り注ぐ夕日に映された己の影を見つめた。どうしようもなかったのだ。ここを動くことも出来なかったし、隣に居る男と二人してブランコをこぐのも嫌だった。
どうしたもんかと考えるうちに自然にブランコは0の地点へと戻って行く。音が小さくなってゆく。キィ、キィ。
ブランコがもう鳴かなくなろうとしたとき、隣の男が静かに口を開いた。
 

万事屋の旦那が探してたぜ。あのでかい犬と一緒に。
 

キーコー、キーコー、キィ。
反射的に男を見上げた。いつの間にか立ちこぎをしていた。膝を屈伸させてブランコをこぐ動きに合わせて、腰にさした刀が揺れる。馬鹿みたいに大きい軌道をブランコで描く。
 

怒ってないから帰ってこいって、見かけたら伝えてくれって言われてねィ。
俺、律儀だから。
きつく叱りすぎました、反省してます、だからとにかく帰ってこいだとさ。
 

キーコー、キーコー、ガチャン。
時折鎖がもう堪えられないと悲鳴をあげる。それでも男はこぐのをやめなかった。
不安定なブランコに身体を預けて、キーコー、ガチャン。
 


少女は、その音をもっと聞いていたい気がした。
けれどそれは自分の恥ずかしさと照れ、そして素直になれない部分の裏返しであることを知っていた。本当は、帰る場所へと駆け出したいのだ。それが出来ない自分に歯軋りをしたくなる。何故、それが出来ないの。
 

帰らねぇの?
 

右からの声に少女は身体を強張らせた。その疑問に返す理由が浮かばなかったからだ。自分は走り出したいのだ。あの温かい家へ。
けれどどんな顔をして帰っていいのか、少女は分からなかった。どんな顔を、あの人達に見せれば、いいのだろうか。あれだけ我が儘を言った自分に、帰ってもいいといってくれた人に、どんな顔で会えばいいのだろう。
そしてもう一つ帰れない理由があった。ここを離れる、その為にはその声の主に礼を言わねばならないのだ。それがどうしても自分には、自然に円滑に行えない。そしてそのきっかけが掴めない。
 

何をどう返そうか、と悩む少女に、暫くの後、再び声がかけられた。
 


あぁ、もしかして迷子?道が分かんないの?
嬢ちゃん、俺が家まで送って進ぜましょうかィ?
 

その明らかに笑いを含んだ声に、反射的に立ち上がる。
 

ば、馬鹿にすんな!
ちょっとブランコが名残惜しかっただけヨ!
帰れるアル!
 

右を見れば、それはそれは楽しそうにほくそ笑んでいる男と目が合い、少女は思わずたじろぐ。再び腰掛けていたらしく、先程まで見上げていた姿がすぐ近くにあったのだ。揺れもごく普通のものになっていた。鎖もただ擦れる程度の音しか出していない。
子供みたいに足を揃えて、伸ばしたり曲げたりするその男は、少女が突然大声を出したことにも、立ち上がった事にも、ちっとも驚かなかった。
 

あぁそう、それならいいけど、とやわらかく微笑んだだけだった。
 


少女はそのまま歩を進める。
その揶揄の意図が分からない訳ではなかった。微笑みの中の優しさに気付かなかった訳でもなかった。ただどうしていいか、見当がつかなかったのだ。
少女は自分が少女であることを情けなく思った。
 

ゆっくりとだけれど、確実に自分の足はこの場から離れようとしている。
言わなくてはならないことを、言いたいことを、言えぬまま。
だって、帰って来いって言われているから。帰らなきゃいけないんだ私は。…なんて、自分に言い訳をしてみたり。どうしようもない、どうしようもないんだわ、私が。
 


でも、今日帰れなかった原因は何?
 

自分が素直になれなかったからではないか。ごめんなさい、その一言が言えなかっただけではないか。
今この男に言うべきことを言えないならば、また同じことを繰り返すだけではないか。
何も変わっちゃいない。それは嫌だ。
 

素直になるということ。少女は思うまま、自分の気持ちを伝えればいいのだと気付く。
たった一言、伝えればいいのだ。
 


振り返る。ブランコに座る男を、自分でもわからない表情で見つめる。
 

ありがとう。
 

言い終わるか終わらないかの時点で少女は走り出していた。その後、ブランコに座る男が発した一言は聞こえていなかった。



end.




…パソコンに書きかけのまま残っていたシリーズその1。
とある一節書き加えた以外はそのままです。(何かそこだけ浮いている気がする…)(けど多分私しか分からない…)
更新日時見たらなんと2009/07/26でした。二年以上前…ワロタwwワロタ…

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